応力振幅(疲労破壊)の検討事例

繰返し荷重による破損の予測

繰返し引張強度や降伏点を下回る負荷を作用させると、ある回数で材料は破断します。
この現象は『疲労』と呼ばれています。

下図は疲労試験によって得られる結果です。
試験片に負荷する荷重は、引張方向、あるいは圧縮方向の『方振り荷重』と、引張、圧縮方向を繰返し負荷する『両降り荷重』のどちらかで試験が行われます。
このように負荷を与える荷重を『繰返し荷重』と呼びます。

繰返し荷重の大きさと破断にいたる繰返しの回数は反比例の関係にあり、繰返し荷重が大きければ数回で、小さければ数万回で破断します。
この繰返し荷重の負荷回数が製品寿命となります。

S-N線図 (疲労曲線)

図1.は繰返し荷重により発生する応力の振幅(応力振幅)と破断に至る繰返し回数を示した図で、S-N線図と呼ばれています。
このS-N線図にプロットされる線図は、試験する材料に応じた応力振幅の値に収束します。
収束したこの値を『疲労限度』と呼びます。

応力振幅の値が疲労限度以下の場合、繰返し回数は無限となり破断は生じません。

製品の改造を依頼され折損した現物を分析すると、多くの場合は疲労破壊による折損です。
一般的に破損事故の60~80%は疲労破壊だと言われています。

設計時の想定から漏れた使用条件で繰返し荷重が発生する場合、納品後約3ヵ月で破損が始まる製品もあれば、使用開始から5~6年で破損する製品もあります。
破損に至るような荷重を検討する強度設計も重要ですが、製品寿命を決める繰返し荷重と製品が使用される条件にも気を配る必要があります。

【疲労破壊の例題】

1月に食品を運ぶトレー100台を納品しました。
5月に入り、納品したトレーに溶接破断が発生しました。
発生した箇所はすべて同じ位置で、キャスター取付け部品の溶接部分でした。

トレーを観察したところ、溶接破断が発生した部分のキャスターはすべて自在輪でした。
固定輪側に破断は確認されませんでした。

以上の事実から、溶接部の破断は疲労破壊と判断し、自在輪の向きによって溶接部に作用する荷重が変動するもの予測されました。

自在輪の取り付け位置に作用する荷重は以下のように計算されました。

上記の計算結果を元にして溶接部に作用する応力振幅を求めると439.82 (N/mm**2)※になりました。
以下のS-N線図は片振れ(0→引張)なので、この場合の応力振幅は219.91 (N/mm**2)で検討します。

※ なお応力振幅を求める計算過程については、対象製品の設計仕様を公開することになるため、省略させていただきます。

以下のS-N線図(片振れ)から計算で得られた応力振幅に赤線を引きます。
この線図からプロットされたデータと交わる点の繰返し回数を拾います。

この場合、約11万回の繰り返し負荷で破損することが予測されます。

例題の考察

1分に1回の頻度で自在輪を1回転させるようにトレー台車を動かし、以下の稼働条件で使用されているものと仮定します。

60 (回 / 時間) × 20 (時間) × 22 (日) × 5.0 (カ月) = 132000 回

自在輪の回転に伴う繰返し負荷により溶接部に疲労が蓄積し、S-N線図で予測した破損回数を超えたため溶接部が破断したものと思われます。

終わりに

多くの場合、現場写真と設計図や簡単なポンチ絵のみでご相談を受けています。
特に溶接施工については現場判断のため施工図がありません。

また、破損した製品を拝見できないことがほとんどです。
折損した破断面を見れば、かなりのことが判りますが、見せていただけないです。

そのような状況で、必要最小限の情報をいただき、破損した原因解析と対策提案を行っております。
品質解析レポートとして報告書を作成し、ご提供もしております。

納品した製品が折損してしまった状況では、心穏やかではありませんが、お問合せいただければ可能な範囲で対応いたします。
頭の片隅にでも覚えていただければと思います。

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