有限要素(FEM / CAE)の精度 【NASTRANの場合】

はじめに

2000年1月のことです。
当時、自動車部品メーカ―の技術開発職に就いていました。
三次元CADを利用したデジタル開発への移行が進み、新車の開発期間短縮が話題になっていた時期でした。

当然、タイトルによるシミュレーションの精度はデジタル開発の要となるため注目されます。
この頃、3次元CADのモデルを元にしたシミュレーション結果とCADデータから試作した実機の試験結果を比較して検証していました。
『こうすれば、シミュレーション(CAE/FEM)を利用してデジタル開発が成功する。』
そんな答えが出せない状況が続いたある日、取引先のH社から意外なことを言われました。

『解析モデルの作り方を疑うわけじゃないけど、シミュレーション自体の精度は大丈夫なの?』
『まずは、シミュレーション用の解析モデルの作り方と精度の関係を明らかにした方が良くない?』

灯台下暗しですね。
実は具体的な根拠がなく、以下のような伝聞に踊らされていることに気が付きました。

  • 『航空機開発で利用されており、高い評価を得ております。』
  • 『XXX社では、シミュレーションの利用で試作回数を減らしYY%の生産性を向上させました。』

そこからの内容になります。

有限要素の精度解析

(検証用モデルの説明)

下図の片持ち梁に対し、1次元および2次元,3次元要素による解析精度検証を実施しました。
英語でまとめてますが、片持ち梁を使い、梁断面の形状を5種類選び、解析モデルの精度検証をしています。

この場合、精度に影響する要因を考えると以下の2つが上げられます。

  • 要素のタイプ(一次元要素(BAR要素)、二次元要素(SHELL要素)、三次元要素(TETRA要素))
  • 要素の分割数(対象形状の離散化状況)

選択した各断面の片持ち梁に対し、要素タイプごとに分割数を変化させてFEM解析を行うことにしました。
得られた結果は、片持ち梁の公式から得られる数値と比較することでFEM解析結果の計算精度とすることができます。

検討時に使用したFEM解析ソフトウエアは、NASTRAN(※)です。

(※注記)
NASTRANは1969年にソースコードが公開され複数のメーカーに分岐派生し商用化が進みます。
特定されることを避けるため開発販売元を明示する情報については伏せさせていただきます。

(検討対象の除外について)

断面形状によってモデル化に使えない要素タイプもありました。
具体的に説明すると、中実丸棒と中実角棒は二次元要素によるモデル化には適しません。
ムリなことをしても精度検証には役に立ちませんので、この二つについては行いませんでした。
検討した内容を表にまとめました。(〇 : 検討対象, ×: 検討対象外)

精度検証の結果

(結論)

得られた結果から結論をまとめると、以下のようなことが判りました。

  • 一次元要素、二次元要素は要素分割数(形状モデルの離散化具合)によらず解析精度は高い。
    梁の公式による計算結果と比較したところ、誤差は±5%以内だった。
  • 三次元要素は要素分割数(形状モデルの離散化具合)により解析精度は変化する。
    要素分割を細かくすれば解析精度は増すが、細かすぎると計算誤差が増え解析精度は悪くなる。
    三次元要素の離散化具合(離散化度)が0.001~0.01%の範囲にあれば解析精度は±5%以内に収まる。
  • この離散化度は、解析モデルの対象形状の大きさに依存しない。
    三次元要素を使う場合、形状モデルの大きさに関係ありません。
    離散化度が上記の範囲に入らなければ高い解析精度は得られないのです。

結論で言う解析精度と離散化度の計算式は以下のようになります。

(結果)

以下に横軸、離散化度(要素分割数の逆数)、縦軸、片持ち張の先端たわみでプロットした解析結果を示します。
結果は表(Table 1.)にしたがい、中実丸棒、パイプ、平板、中実角棒、アングル(等辺山形)の順番で示します。

今回は触れませんが、パイプについては二次元要素で、アングルについては全体的に精度が出ていません。
パイプの場合、二次元要素固有の問題で解析精度が出ていません。
この場合の固有の問題とは、要素の法線軸廻りの回転変形がモデル化できないことです。
その結果、要素の面内におけるせん断変形が計算されないため、このような結果になります。

アングルの場合、この問題では片持ち梁がたわむ時、ねじれも生じます。
理由は断面が荷重負荷方向に対し対称形ではありません。
そのため弾性主軸位置とせん断主軸位置がずれが生じます。
そのずれ量に比例した偶力が生じ片持ち張に曲げとねじりが生じます。

そのため、曲げしか考慮していない片持ち梁の公式から得られる結果とFEMシミュレーションの結果に誤差が生じたと考えられます。

グラフ1. 中実丸棒の離散化度(要素分割数)と先端たわみの結果比較 (一次元要素、三次元要素、公式<理論解>)

グラフ2. パイプの離散化度(要素分割数)と先端たわみの結果比較 (一次元要素、二次元要素、三次元要素、公式<理論解>)

グラフ 3. 平板の離散化度(要素分割数)と先端たわみの結果比較 (一次元要素、二次元要素、三次元要素、公式<理論解>)

グラフ 4. 中実角棒の離散化度(要素分割数)と先端たわみの結果比較 (一次元要素、三次元要素、公式<理論解>)

グラフ 5. アングルの離散化度(要素分割数)と先端たわみの結果比較 (一次元要素、二次元要素、三次元要素、公式<理論解>)

(考察)

現在、三次元CADからFEMシミュレーション用の解析モデルを三次元要素で作成する流れになっています。
しかし以上のことから考えると、三次元要素でFEMシミュレーションでは精度校正は必要だと考えます。
また三次元形状の大きさに要素分割数は依存しないので、要素数で解析精度が予測できるメリットもあります。
三次元要素を使ったFEMシミュレーション(構造解析)は、解析精度を得るための段取が必要となります。

当社の場合、基本設計では一次元、二次元要素で簡易的な形状モデルを作成しFEMシミュレーションを行っています。
部品形状を定めるために行う検討ですから、三次元CADで形状を決める前に概略寸法を求めます。
その寸法を元に一次元要素なら断面形状を変えたり、二次元要素なら板厚を変化させ目的に応じた形状を検討しています。
三次元要素を使ったFEMシミュレーションを避けながら、三次元CADを利用した開発を行っています。

FEM解析がうまく立ち上がらない。
三次元CADとの連携がうまくいかない。

いろいろと気になることがあれば、お問合せよりお気軽にご連絡ください。
ABAQUS、NASTRANを利用していた経験がございます。
また、現在、仕事ではLISAを使って製品開発を進めております。

FEMシミュレーションに対するご相談、お問合せをお待ちしております。

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