【事例紹介】米国向鉄道車両(Metra, Chicago, IL)の構造解析

これは30年前の話です。

この車両は、2021年の現在でもアメリカ、イリノイ州のシカゴ市と近郊の都市をつなぐローカル鉄道サービスとして運行しています。
運行会社はMetra社。製作納入は日本の愛知県豊川市にあるN社様になります。

当時、N社様より勤めていた勤務先が、車両の構造解析(強度シミュレーション)と英文報告書作成を受注いたしました。
その時の上司が航空機開発の経験があり、航空機の型式証明取得に向けた英文資料の作成経験があったことから受注に到りました。

今から、約30年ほど前の事例になります。
現在、国内では海外向け鉄道車両の新規受注はできておらず、海外事業は縮小・撤退の方向に進んでいます。
あと数十年も経過すれば、海外向けの鉄道車両の開発設計に関与したエンジニアが現役を引退します。
リアルタイムで体験した技術者が職場から去り、企業内に残る記録や記憶、暗黙知のような経験的な知識などが消え去ることになります。

実際、2013年に量産開始を目標に開発を進めていた国産旅客航空機開発は、目標時期が5年経過した2018年でも量産化できませんでした。
そして最終的に開発は凍結することになりました。
多くの日本企業はB777(開発時期 1989年~1994年)の部品開発に参画し知見とノウハウを蓄積しました。
この国産旅客航空機開発は、当時のノウハウを次世代に伝承する事業としてはラストチャンスでした。
途中から海外の現役エンジニアにシフトしましたが力及ばず凍結し、若い世代のエンジニアに伝承する機会を失いました。

この凍結騒動を見て、現場を経験して得られた知識が消え去る様子を感じ、このような記事を書くことで記録と記憶を残そうと考えたわけです。

この記事で紹介する内容は、普段の製品開発の中では見聞きする内容ではありません。
なぜなら、航空機開発などで利用されている知見を元に作成した資料だからです。
何か、気に留まることがあれば幸いです。

お問合せいただければと思います。

構造モデルの作成

当時、FEMシミュレーション(構造解析)のモデルは一次元要素(ハリ要素/ BAR要素)と二次元要素(薄板要素 / SHELL要素)で作成することが主流でした。
スーパーコンピュータを利用しますが、短時間で計算し、計算コストを下げるため、三次元要素は使えませんでした。
また計算精度は三次元要素と比較し、一次元、二次元要素の方が高いことも理由です。

同時に車両全体をモデル化するのは時間が掛かります。
製品の対称性を利用し、構造モデルは1/4モデルとしています。

これは、構造モデルの中心平面(データム平面)は移動や変形しないことが前提となっています。
1/4モデルの境界には、この前提条件が拘束条件としてモデル化してあります。

FEM解析結果から強度計算

現在は、三次元CADのモデルからFEMシミュレーションを行い、得られた計算結果が強度計算結果として流通しています。
それは間違いではありません。

解析モデルは一次元、二次元要素なので、得られた計算結果は要約であり構造モデルの詳細結果を示していない。
このような指摘があり、FEM解析結果を元に詳細検討を行っています。

以下の図は、もう構造モデル図の (A) の部分になります。
この部分の節点に計算で得られた曲げモーメントとせん断力の値、実際のスポット溶接部に作用するせん断力に三次元的に分解して求めています。

節点に作用する曲げモーメントを三次元的に分解する手法について解説した日本語の教科書はありませんでした。
実は、現在もありませんし、このような偶力の分解方法は国内では利用されておりません。

数年前、この偶力の分解手法を使い強度計算資料を作成し大手ゼネコンの担当者に提出したところ、こう指摘されました。

このような計算方法は知らないし、初めて見た。
計算法を解説した書籍を明らかにしてもらうか、別の方法で計算してほしい。
また、海外で使われている手法だとしても、ここは日本だから、日本のやり方にしてほしい。

構造シミュレーションのソフトウエアに組込まれている計算手法にも採用されていますが、説明するのも面倒だったので計算方法を変えました。
この時、簡易的な分解方法は理解できても海外で求められる計算方法を知らない事実を知り、日本の海外向け事業は縮小するだろうな。と、感じました。

残念ですが、今の状況を見ると、その直感は正しかったと思います。

計算方法は専門性が高すぎるので記事にはしませんが、このような検討を30カ所ほど行いました。
ページ数では700ページ弱になります。

まだまだ語れることはありますので、機会を見て記事を書こうと思います。

 

 

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