はじめに
当社では、ローエンドの三次元CAD(AlibreDesign Professional)を使い製品や設備設計を行っております。
お客様の要望にお応えするため、二次元CADでの設計作図も行います。
また、自動車部品メーカー勤務時には、ハイエンドの三次元CAD(CATIA V5)を利用しておりました。
以下の図は、メーカー勤務時の取組みになります。
それらの経験を踏まえ、三次元CADの導入時に考えて欲しいことをご紹介いたします。
3D-CAD導入の効果
1). 本当に設計工数は減らせる?
いろいろとこれまでの事例を考え見ましたが設計工数は減りません。
同等、もしくは三次元CADで作図した方が時間が長くなります。
三次元CADと二次元CADでは開発設計から製品製作までのプロセスが変ってしまうため、同じ土俵での比較ができません。
あえて同じ土俵での比較を考えた場合、これまでの二次元CADによる開発設計に対し、三次元CADでは以下の作業が増えることになります。
- 部品の三次元形状をモデリングする作業
二次元CADの場合、部品の設計作業で形状を決めて描くことが製図製作になります。
一方、三次元CADの場合、三次元形状のモデリングを行い、モデリングされた形状を元に製図し寸法を記入する。
部品の形状を決めてもデリングすることが製図製作にはなりません。 - モデリングされた部品のデータを組立図として組み立てる作業
二次元CADの場合、各部品データの図面をコピーしながら貼付け重ね合わせることで組立図が作図できます。
三次元CADの場合、各部品のモデリングデータに対し、接触面や軸の通りを拘束条件として設定する必要があります。
この作業は二次元CADのようにコピーを貼り付けるような単純作業ではありません。
そのため組立図をモデリングする場合、比較的に時間を要する作業となります。
特に、構造の複雑さや部品点数に比例して時間を費やす作業になります。組立図のモデリングに要する時間は、実際の製作時間に比例します。
複雑な装置を開発すれば組立時間も必要になるため、三次元CADでの組立図モデリングも時間が必要になります。
2).2020年頃から状況が変わってきました。
2020年あたりから三次元CADデータのみで加工見積をする事業者の話を聴くようになりました。
紙図や二次元CADデータの場合、見積しない。
もしくは三次元CADデータの作成費用を徴収するような事業者も現れました。
その場合、三次元モデル形状には、求める公差寸法で形状を作成する必要があります。
製作側が公差寸法の範囲を見て寸法を微調整することはありません。
心配な場合、別途、公差を要求する部分に寸法を入れた紙図面(二次元CADデータ)の仕様書として提出することを求められます。
一方、3D単独図(※1)についても標準化の動きはありますが、ISOやJIS規格化には、まだまだ時間がかかるようです。
2020年頃から3次元データだけで部品製作ができるようになってきました。
実際に、ある事業者に加工を依頼し、紙図(二次元CADデータ)なしで部品を製作していただいております。
当然ですが、事前に加工精度を確認していたので、その点を考慮しながら公差寸法は盛り込んで形状モデルを作成しました。
この部品について見積用の紙図面(製図)の作成はしていません。
その部品が 10 mV信号を 10 V信号に増幅するアンプ(信号増幅)基盤の保護ケースです。
図に示されるケース(青色)のデータが、そのまま見積データとなっています。
3). 製作コストは減らせます
三次元CADにより製作コストは減らせます。
三次元CADを使うと部品間の干渉が発見しやすいので、組立工程で発生する取付位置が合わないような不具合は少なくなります。
また取付け位置の周辺形状をモデル化し部品モデルと組み合せることで、取付け時の干渉も確認できます。
さらに三次元CADで組立作業のシミュレーションを行うと、作業時に干渉する可能性が高い部分を検出できます。
部品を加工し組立工程に入る前に、部品形状を改善することができます。
シミュレーションの効果や導入および導入後の支援
1). シミュレーションはケース・バイ・ケース
三次元CAD導入のメリットにシミュレーションを挙げられます。
しかし結果が得るまでに時間ばかり取られしまい業務効率を悪化させるケースも見られます。
特に単純形状で検討可能な場合、EXCELのようなツールを利用した方が効果も高くなります。
またシミュレーションは耳慣れない専門用語も多く、しかも単純な形状モデルを元に計算結果の精度確認も必要となります。
ソフト導入後、短時間で使いこなせる機能ではありません。
導入検討時には、当社でもご相談は受付けます。
当社で利用しているシミュレーションソフトは、数万円で購入できるものです。
ただし、メニューは英語で、日本語のサポートはありません。
シミュレーション結果の事例(変位図)を示します。
数十万円出せば、日本語メニューで日本語サポートが受けられるソフトもございます。
シミュレーションを行う目的を明確にして、導入効果を数字なので設定された方が良いと思います。
2). 三次元CAD導入で設計者に求められる能力とは
製作工数を削減するポイントは設計時における組立作業のシミュレーションにあります。
三次元CADは立体化した形状モデルを使うので、部品の逃げ代など組立詐欺用事に必要な空間の事前検討が視覚的になり容易になります。
そのため設計者には、モデリングや作図能力以外に3D-CADのメリットを活かした組立作業の勘所を踏まえた検討能力が求められます。
またデザイン・レビューを頻繁に行い、製作する担当者の意見を求めることも有効です。
3). ローエンドの三次元CADについて
設計内容に応じて、ローエンドの選択も有効な場合があります。
ミッドレンジの三次元CADと比較した場合、曲面の作成機能や作図機能に制限があり苦労することもありますが、設計ツールとしては十分に機能しております。
実務では装置開発を三次元CADで行っております。
取扱い製品や部品、製造方法(旋盤加工、三軸加工、五軸加工)などを考慮したモデリングのテキストなど、実務経験を踏まえて作成いたします。
終わりに
2003年のWindowsXP以降、三次元CADの契約方法に大きな変化が見られました。
これまでは、ソフトの使用権を購入するものでした。
それはアパートやマンションの一室を借りることと同じです。
部屋自体を購入しないのと同じで、ソフトウエア本体を購入するわけではありません。
部屋を借りて月払の賃料を支払うように、年払の使用料を支払う方式でした。
Office365のように、月払の利用料を支払い、任意の期間だけ利用できるようになってきました。
長期利用を考えている場合、利用料が高くなる可能性もあります。
大学で三次元CADの開発や三次元データの利用研究から始まり、昨年、30年を超えました。
三次元CADの黎明期からの経験は膨大なものになります。
お困りのことがあれば、ご相談に応じます。
お気軽にお問合せください。