FEMソフトウェア(CAE)の精度と校正

精度校正の応用(CAE/FEM)

前回、角棒(断面 矩形30×30 mm / 長さ 1000 mm)の片持ち梁で、形状モデルを分割するメッシュサイズとシミュレーション結果の精度について書きました。
今回は、その応用になります。

断面形状をパイプ(A25 / 外径34.0 mm, 板厚3.5 mm)で検証してみたいと思います。

パイプにした理由

FEMシミュレーションで利用するメッシュには、目的に応じて大きく三種類に分類されます。

  • 一次元要素 (BEAM要素、BAR要素、ROD要素)
  • 二次元要素 (SELL要素)
  • 三次元要素 (SOLID要素)

三次元CADデータをメッシュ分割するので、三次元要素の特徴を説明します。

三次元要素が計算するのは X, Y, Z軸、それぞれの方向の引張圧縮荷重や変位のみです。
要素のねじり変形やせん断変形などの回転運動はモデル化されていません。

計算上、せん断変形によるせん断変位と、ぞれぞれの軸方向変位を切り分けられないからです。
そのため、せん断変形が軸方向の変位のように扱えるサイズまで形状モデルのメッシュを細かくする必要があります。

片持ち梁を曲げる場合、せん断変形の影響が強く受ける断面形状がパイプなのです。
以下のFEMシミュレーションの精度校正用に設定した例題を以下に示します。

材質はステンレス(SUS304相当)で、縦弾性係数は195. GPa とします。

机上検討の結果

材料力学の教科書には必ず記載されている片持ち梁の計算式~先端たわみ(ω)と拘束点に生じる曲げ応力を計算しています。
計算結果はたわみ(ω) = 43.286 (mm) 、曲げ応力は 430.48 (MPa)になります。

計算内容については以下を参照してください。

メッシュサイズと節点数・要素数の関係

FUSION360で、モデルベースのメッシュサイズを変化させ、形状モデルにメッシュを作成してみました。

結果は以下のようになり、3%よりも小さくなると節点数・要素数ともに増加します。
結論ではありませんが、短い計算時間で結果を得ようとするならば、モデルベースのメッシュサイズは3~10%の間が良いように思われます。

次にFEMシミュレーション(CAE)の計算精度について検討してます。

メッシュサイズと先端たわみ(ω)の変化

以下に示されるグラフは机上検討結果とメッシュサイズ別のFEM解析モデルの結果を比較しました。

モデルベースのメッシュサイズが3%以下になると、机上検討の結果とFEM解析の結果が概ね一致します。
一方、3%より大きいと、規則性が見いだせないバラツキを示します。

メッシュサイズと曲げ応力の変化

モデルベースのメッシュサイズが3%、および10%の時、机上検討の結果とFEM解析の結果が概ね一致します。
それ以外の場合、バラツキが大きくなります。

メッシュサイズとFEM解析結果の誤差割合(%)の変化

机上検討の結果に対するFEM解析結果の誤差割合を求めてみました。
モデルベースのメッシュサイズ毎に並べた結果を示します。

こうしてみると、デフォルトの10%と要素サイズが増加を始める手前の3%で、誤差割合が少ないことが明らかになりました。

精度検討をしてみると、デフォルトの状態でFEMシミュレーションを行えば、経験に依らず精度は得られそうです。
ただ過信は禁物ですので、最後に実際の試作品などで強度確認はお忘れなく。

メッシュサイズによって解析結果が不規則にバラついた理由

以下は、私なりの考察になります。
FUSION360の開発元の見解ではありません。
この考察に関するお問合せについては、当社までお願いいたします。

以下に、メッシュサイズ別に作成されたFEM解析モデルを示します。
メッシュサイズが1%, 2%, 3%と10%以外、メッシュに乱れが観察されます。

形状が不ぞろいとなるメッシュが生成されると、計算時に影響されてしまい結果がバラついてしまったと考えています。
要素形状のひずみ(扁平)は、各メッシュの剛性や内部エネルギー(ひずみエネルギー)計算の時に桁落ちや情報落ちを発生させ計算結果に影響する可能性が高いです。

まとめ

今回は、計算結果のバラツキが大きかったため、具体的な数値による考察は示しておりません。
時間に余裕があれば、試してみてはいかがでしょうか。
これは、ローカルサイドの計算機(パソコン)で実行した結果です。

有料になりますがクラウドでも実行できるようです。
クラウド上で計算すると、別の結果が得られるかもしれません。

FEMシミュレーション(CAD)は、万能ではなく、シミュレーション対象の形状やメッシュサイズに大きな影響を受けることがご理解いただけたと思います。
そのため実務で使う前に、製品の特徴的な形状を題材にした例題を設定し、机上検討結果とシミュレーションの結果を比較し校正をはかる必要があります。

このような取組みに対し、ご不明な点や困ったことがあれば相談に応じます。
メールでのお問合せで、お困りのことをお伝えください。

よろしくお願いいたします。

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