船舶設備の開発

超法規的措置の船舶

これから紹介する船舶は、すでに解体されています。
社会実験のため、期間限定の超法規的措置で運用を許可された船舶の設備開発の事例です。

開発の背景

日本は島国です。
特に島嶼部の過疎化と高齢化は深刻で、物流や人の移動を担う人たちが減っています。

一方、物流では移動式のコンビニエンスストアの海上移動。
人の移動では乗客が乗車したまま乗船可能な方法が検討されています。

日本の海上輸送に関する法律

日本の海上輸送に関する法律は、車両と人を運ぶ船舶は鋼鉄製であることが求められています。
そのため排水量は20t以上の大型船舶になります。
同時に人は、港までの移動車両から下車し、海上移動中は客室で待機しなければなりません。

実験船の概要

写真の実験船は、FRP(ガラス繊維補強樹脂)で建造されています。
実験船に乗船させる車両はハイブリッド仕様のマイクロバス1台(乗客を含め質量 約8,000kg)で、人が乗車した状態を想定しています。

先に説明した法律を無視した仕様になっています。それには理由があります。
船の建造費と維持修繕費を抑えるため、FRPを採用しています。
またマイクロバスを船舶に固定することで客室とみなし、利便性を向上させ、海上輸送を担う民間事業者に利用を促すためです。

実験目的を確認するため超法規的措置により建造が許可され、期間を限定した運用が可能となりました。

当社の担当部分

当社の担当部分は、陸から船舶にマイクロバスが乗船するときのリフトを兼用した橋げた(ランプブリッジ)を設計することでした。
写真には、緑色に塗装されたランプブリッジの先端部分が写っています。

このランプブリッジに要求された仕様は以下の通りでした。
この数少ない条件から、波浪に伴う船舶の傾きによる車両の荷重変動や車両の移動に伴う強度計算を行いました。
強度・剛性を保ちつつ、軽量化を図る構造を模索しました。
また製作を担当する事業者も変わってしまい、事業所で出来ることを確認しながら設計を繰返したため、6回の設計変更がありました。

【仕様】

  • 総目標重量を1800kg以下にすること。
  • マイクロバスはハイブリッド車とする。
  • 接岸時、ランプブリッジの迎角(ランプブリッジの傾き)は10度。

いろいろな事業者に、この開発について相談されたそうですが、以下の理由で断られたそうです。

【断られた理由】
約8,000kgの重量をリフトさせる場合、リフト装置の重量はリフトさせる重さと同じぐらいになる。
1,800kgのリフターで約8,000kgの重量をリフトされることは常識に反する。

設計したランプブリッジ

当社は三次元CADによる設計を基本としています。
設計したランプブリッジも、以下の画像のような三次元モデルとして設計しました。

三次元CADの良いところは、モデルに鋼材の密度を設定しておくと、正確な質量が予測できる点です。
この画像は最終形状ですが、この部分だけで約1000kgでした。
また画像にない先端部分が約780kgで、合計1780kg。仕様を満足させることが出来ました。

強度については、角パイプを使い、曲げモーメントがきつくなる部分の剛性を高くしました。
反対に負荷が少なくなる中央部分などは細い鋼材を選択し、軽量化を図りました。

計算上では板厚2.3mmでも大丈夫だったのですが、製作する事業者の判断で板厚を3.2mmにしています。
もし計算通りに2.3mmで制作した場合、約1600kg前後にまで軽量化できました。
超法規的措置で建造する船舶とは言え、安全は確保しなければなりませんので、製作現場の判断に従いました。

時間があれば、FEM解析のような構造シミュレーションを行うのですが、時間が無かったので、すべて手計算で行っています。
当社には、複雑な構造でも、問題を切り分けて、材料力学の教科書に掲載されているような公式を使い、計算書を作成することもできます。

手計算による構造の最適化

強度計算については、手計算で丹念に行いました。
そのため各部材の強度がどの部分でも一定になるように、剛性を示す鋼材の断面サイズを変えて最適化されております。
最適化と言われると、シミュレーションソフトを使って行うことと思われがちです。
しかし鋼材を選択するようなフレーム設計の場合、手計算で行うこともできます。

このようなザックリした仕様でも、用途から当社の方で仕様を詳細に検討し設計することも可能です。
ご相談したいことがあれば、お問合せページからご連絡下さい。

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