【技術セミナー(再掲)】モデルベース開発(MB D)とはなにか?(続き)

1 モデルベース開発が必要な背景

小型EVを題材に少し話を勧めましょう。

小型EVを開発する場合、資料の大きさなど寸などは法規で規格が決められている部分もあるので、そこを参考にします。
さて、出力なども規定されていたりするので、問題ありません。

しかし、想定する路面状況や走行性能は法規で規格化されていたとして、実車に搭載する駆動モーターやバッテリーの容量は簡単に決められるものでしょうか?

一番簡単な方法は、分からないので、実験車両を製作し走らせてみることです。
しかし、最初から要件を満足する車両ができるわけではありません。

不足している部分や過剰な仕様を変更し、採算が取れるように修正を加えてることを繰返すことになります。
そのために必要な費用はいくらぐらいになるでしょうか。

一方で、製品化できたとして、販売予定価格から得られる利益はどれくらいになるでしょうか。
また、販売台数はどの程度を見込んでいますか?

開発費は先行投資になります。
製品化した商品の利益で回収しなければなりません。

さらに別の経費も掛かります。

次の製品の開発費用と、販売している製品を作り続けるために、生産設備の維持管理・保守点検などの修繕費も発生してきます。
先行投資と製品化して得られる売上だけではないのです。

新卒で研究・開発部門に配属されると、(先行投資)=(製品化して得られる利益)と短絡的に考えてしまいます。
しかし、それ以外にの経費も稼ぎださなければなりません。

そう考えると、先行投資と言われる開発費用は最小にする必要があります。

2 1Dシミュレーション

そこで開発する小型EVの駆動系を1Dの数理モデルとして最初に開発します。
最終的に試作車両を作りますが、『妥当な製品仕様を見つけるため』ではなく、『予測した製品仕様の妥当性を確認』が目的になります。

下図は作成した1Dシミュレーション用の数理モデルです。(Simulinhk(R)モデル)です。
この時点ではMATLAB/Simulinkの契約はありませんので、このモデルを元にEXCELで検討しました。

検討する小型ECの仕様は以下の通りです。
おそらく、大手企業様や先行で開発され実証実験されているベンチャー企業の皆様は、このような検討をされていると思います。

また、小型EVだけでなく、一般車両においても同様の検討がなされていると思います。
それ以外の製品においても、このような検討手法は始まっていると思います。

ポイントは精度よく、このような1Dモデルを作成できることになります。

3 駆動モーターやバッテリーの容量について検討をすすめましょう

2018年からだったと記憶しています。

車両の燃費モードがJC08からWLTCに変わりました。
しかし、日本で販売されている車両はClass 2, Class 3a, Class3bとなっています。

国交省の方で調査し、Class 1の車両があることを認めていますが、1車種であることと販売台数が少などの理由により外されています。

そうは行っても小型EVです。
最高速度は50 km/hと規制を受けています。

一般車両と同じクラス、Class 2 や Class3で検討するわけにもいきません。
適用するClassを選択する条件式がありますので、事前に検討した資料になります。

この時は、駆動モーターの出力は仮定として、最大5 kWとしました。
その後、9 kWに変更して、検討しなおしたようです。

この場合、適用すクラスはClass 1のようです。
ただ走行スケジュールでは最高速度は64km/hの部分もあり、小型EVの法規で規制されている最高速度60 km/hを超えてしまいます。

しかし、車検の条件を見てみますと、運転者が視認する速度計の誤差は10%は認められるそうです。
例えば、モーターベンチの上でテスト速度として時速60kmを車両に入力した場合、速度計は54 km/h ~ 66 km/hの範囲にあれば合格なのです。

正確であることは大事ですが、計器には誤差があります。
また、瞬間的には制限速度を超える場合もあります。

規制されている速度を超える部分については、次のような理由で検討を勧めました。

  • 計器上での誤差範囲であることと。
  • 瞬間的な超過であり、意図して恒久的な超過状況ではないこと。

4 小型EVに作用する負荷を求めてみましょう

駆動モーターの出力が車両の駆動タイヤに作用する駆動力になります。

逆に言えば、走行スケジュールから求められる車両の加速度は、小型EVの駆動力と釣合う必要があります。

走行スケジュールの速度の変化は気加速度として計算できますから、計算しグラフとして作成してみました。
この加速度が小型EVの質量に作用し、駆動力と釣合う力となります。

簡単に言えば、ニュートンの運動の法則(物体に作用する力Fは、物体の質量mと物体の速度変化、加速度aの積)になります。

加速度のパターンはアクセルを踏み込みと同期しています。
脚の動きと加速度のバターンを連動させて、走行スケジュールを見ると、計算結果の妥当性は直観的にわかるかもしれません。
その部分は「工学的なセンス」であり、教えられて見に付けられる部分ではありません。

教え方が悪いわけではなく、ご本人の感性が響かない部分なので、気にしなくても良いと思います。

この加速度から小型EVのタイヤサイズを元に、車軸の駆動トルクを計算していきます。

5 車軸トルクからモーターの軸出力を計算してみました

WLTCのClass 1、走行スケジュールから、駆動モーターに要求される軸出力を計算してみました。

でも、このグラフではどんなモーターが必要か分かりません。
ここまでは、駆動モーターに要求される軸出力です。

最低限、このような軸出力が提供できる駆動モーターを選択する必要があります。

6 ついて来れてますか?

前節の駆動モーターの軸出力のグラフのまとめ方を変更します。
横軸に駆動モーターの回転数。縦毒に駆動モーターの軸出力です。

軸出力の値は前節のグラフから読み取れます。
問題は、駆動モーターの回転数です。

タイヤのサイズが判っていますので、走行スケジュールの速度からタイヤの回転数が計算できます。
その時の回転数は車軸の回転数と一致します。

駆動モーターと車軸の間には変速機(ギアボックス)があります。
新幹線のように走行中にモーターの極数が変更できれば変速機は必要ありません。

そのようなモーターを使うことはできないので、変速機を入れています。

駆動軸側の回転数に対し、変速機を介して車軸の回転数を変えて出力します。
いわゆる『ギア比』です。

その関係を使い、車軸の回転数から駆動軸の回転数を算出しました。

この走行スケジュールから、ある時刻に要求される駆動モーターの軸出力と軸回転数が算出できるようになるわけです。
そして、走行中の軸回転数と軸出力をプロットすると、以下のようなグラフが描けるわけです。

7 どう判断しますか?

この結果を見て、どう判断しますか?

私は、少なくとも5kWの駆動モーターでは、箱根のような坂道はキツイと思いました。
都市部利用だと、ストップ・アンド・ゴーが多いので、不向きのような気がします。

また、駆動モーターに余裕がありません。

ちなみに、計算条件としては平地を想定しています。
登坂傾斜があった場合、どうなったでしょう。

量産化を前提とした試作車両を考える場合、このような検討を進めることで、試作回数は減らせますし、製作費用も減らせるわけです。

また試作車両を廃棄するにしても利用した資源は最小限に抑えられます。

8 モデルベース開発とは何か

まとめると、こんな感じになります。
生成AI対策でまとめた部分は画像にしています。

モデルベース開発は手法です。
新製品を開発するとき、無駄な資金や資源を使わない。
行き当たりばったりの製品開発ではなく、理論的に製品を開発するための手法ということになります。

興味があれば、お問い合わせを。

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