1 三次元CADのモデルによる三次元要素のFEMモデルでわかること
判ることは、荷重負荷時の概ねの変形状態や部品内部の応力分布傾向が判ることでしょうか。
厳密な意味での精度は、要素サイズをパラメータとしてソフトウエアの結果と理論解との校正を行ったときに分かります。
モデルのサイズによらず、10万~20万要素ぐらに分割すれば、三次元要素でも精度が出ていることは確認しています。
しかし、メッシュ作成後に境界条件を設定する作業が煩わしい。
ハードによっては、メモリ不足で動きが悪い。場合によっては、メモリ不足でソフトが落ちてしまう。
あるいは、メッシュが細かすぎて、境界条件を設定する節点がピックアップしづらい。
冗談のような話ですが、35歳を過ぎてから老眼が始まり、節点をピックアップする作業がツラくなりました。
設計モデルは三次元モデルで構わない。
しかしFEM用の解析モデルは軽く、境界条件の設定や計算結果を検討するためにシンプルにしたい。
2 三次元モデルから二次元要素用のFEMモデルを作るための段取り
そこで、三次元CADで設計した部品ファイルから二次元要素を使ったFEMモデルを作ることにしました。
イメージとしては、以下の図のようになります。
上図は三次元CADで作成しなおした部品形状です。
解析結果から節点上の X, Y, Z方向変位量や最大主応力、最小主応力の応力値をピックアップできるように、形状モデルとしては1/2(ミラー対象)としました。
そこから、二次元要素を使ってFEM解析モデルが作成できるように、下図のような形状モデルを作成します。
このような形状は、CSG方式で三次元形状を定義するAlibreDesignでは出来ません。
B-Reps方式で三次元形状を定義する意匠デザイン用CADのRhinocerosを使います。
RhinocerosはSTEPデータをインポートし、ソフトウエア内部でB-Reps方式のデータに変換します。
Rhinoで二次元要素用のFEMモデルを作成するために不要な面(Surface)を削除し、STEPデータで保存します。
以下の図は、保存したSTEPファイルを改めてAlibreDesignで開いた様子になります。
3 Rhinoでの作業は
Rhinoは意匠デザイン用の三次元CADになります。
B-Reps方式で三次元形状を作成しているので、馴れるとCSG方式の三次元CADより、形状モデルの作成時間が短くなります。
元々は船舶の設計用に開発された三次元CADです。
船舶の設計図面を見たことがありますが、船体の側面図があり、その図を基準に複数の断面図を作成されていました。
設計上、重要な断面形状や構造図はあるものの、外板の形状は現場に任されているような状況でした。
逆に言えば、船体断面のプロファイル形状が判れば、そのプロファイルを使い、面を作成すれば三次元的な船体形状が作成できます。
そこから発展してきた三次元CADになります。
それは機械加工を中心に考えるCSG方式の三次元CADではできないことです。
下の図は、AlibreDesignで出力したSTEPファイルを開いた状態になります。
このファイルを使い、内部データとして保存されている面(Surface)間の結合関係を削除します。
そのような作業をすることで、削除したい面(Surface)をビックアップしたとき、三次元形状として認識されなくなります。
ピックアップした面(Surface)だけが選択されます。
詳細はRhinoの操作マニュアルを確認してください。
二次元要素でFEM解析モデルを作成するために不要な面を削除したあと、反対側の形状もミラーコピー機能で作成しました。
下の図は作成した形状になります。
4 ちょっとしたコツになります
節点上の解析結果(数値データ)をビックアップする予定です。
そのために、節点の作成位置は揃えておきたいものです。
解析モデル作成用のプリ・ポスト処理用のソフトなら、そのようなニーズに合わせた機能があります。
しかし三次元CADには、そのような都合のよい機能はありません。
どうすればいいのでしょうか?
実は、形状データにはデータ作成時にオペレータが作成する点(Point)とは別に、ソフトウエアが自動で作成する内部制御点(Vertex)があります。
これの内部制御点は形状データの作成手順に応じてソフトウエアが自動で作成するものです。
通常の使い方では意識することもありませんが、この場合はその内部制御点やその点によって作成された面の分割線を利用します。
下の図を見て、複数の面で分割されていることが判ると思います。
形状モデルを作成するには面倒なのですが、解析結果をビックアップしたいところに分割線が来るようにAlibreDesignで形状モデルを作成しました。
料理ではありませんが、各段階で手間を掛けることで、精度の高い計算結果や、詳細な検討結果が得られます。
三次元CADで作成した形状モデルをベースにFEM解析モデルを作成し、解析結果を見ても詳細まではつかめないことが判っていただけたと思います。
5 いきなりですが、完成した二次元要素によるFEMモデルです
内側から見た解析モデルになります。
緑色の矢線が圧力になります。
赤色の△が変位拘束を示しています。
いろいろと設定はしていますが、詳細については、また別の機会に。
実は、この検討結果の報告書にまとめましたが、契約上の関係から取引先に提出していません。
次の試作を設計しているので、その形状に対して行うことになりました。
境界条件や荷重条件などは控えさせていただきます。
別のモデルで境界条件の設定方法を説明します。
下の図を見て、三次元モデルをベースにした有限要素モデルよりはシンプルになったと思います。
サクサクと画面の中で動きますし、シミュレーション結果が得られる時間も早いです。
手間はかかっていますが、シミュレーションの先にある解析結果をまとめる時間は十分に取れました。
6 いきなりが続きますが、解析結果です
解析結果を示します。
表示している分布図は、最大主応力(Principal Stress 1)で、外側の状態になります。
二次元要素なので、板の外側や内側の応力分布を同時に表示させることはできません。
表示するデータを切り替えれば、板の内側の状態も知ることができます。
節点上の計算結果を使ったグラフについては、機密上の問題から、別の部品を探してみます。
7 まとめ
三次元CADにソルバーが組み込まれ、CADの機能として材料力学を知らなくても強度計算ができるようになりました。
落とし穴もあって、強度判定の基準は引張強さにするのか、降伏応力にするのか。
長期的な静荷重の場合と短期的な動荷重の場合でも基準は変ってきます。
得られた結果の評価方法が問題になります。
実際にこんなことがありました。
降伏応力を超えた結果がCAD上のシミュレーション結果に表示されていても、その数値の意味が分からずに試作を依頼。
製作された部品を使い実験したところ、簡単に壊れてしまいました。
設計担当者はシミュレーションもしたので、大丈夫だと思い試作を依頼した。
と、主張していたので、解析結果を見せてもらいました。
ものの見事に、赤色で表示されている部分は降伏応力を超えていました。
壊れるはずです。
ミスは学びのチャンスでもあるため、怒るのではなく、検討に不足していたことを1つずつ教えていきました。
- 部品がどのような状態になったら破壊と判断するか。
- そのために必要な検討は何か、
- 検討するためには、どのようなデータが必要なのか。
- 検討してみたら、壊れるそうなことが判った。その場合、設計的な対処方法は何か。
- 改善しない場合は、誰に相談すれはよいか。
FEM解析の専任技術者も必要だとは思いますが、現状では一社に一人は必要ないようにも感じています。
工数で言えば、0.5人日ぐらい。
複数社と顧問契約を結び、解析業務のチェックや指導などが仕事になれば、良いのかもしれません。
やはり、FEM解析の圧倒的なニーズは三次元CADに組み込まれたソルバーを使い、部品を設計しながらシミュレーションを行うことだと思います。
専任となって取り組むような業務は意外に少ない。
しかし、すべての開発人材が材料力学や強度設計に詳しいわけではない現実もあります。
ましてや、三次元CADは強度判定をしてくれません。
強度判定については、日本国内の場合、法的根拠としては建築基準法しかありません。
そして毎年、省令などにより告示、改訂されています。
いろいろと苦労は絶えないと思います。
もし、困ったらご相談ください。