1 AlibreDesignで設計した製品事例(船舶の付帯設備)
開発背景や設計について、一つ前の記事で紹介していますので、そちらをご覧ください。
【AlibreDesign】AlibreDesignを使って製作した製品の事例紹介 | 刃金からくり屋
ここではAlibreDesignの機能にはないCAE/FEMについて紹介します。
前の記事でも紹介しましたが、設計はAlibreDesign、仕様検討はEXCELや手計算で行いました。
2 外力の算出(海面のうねりによる甲板の傾きと影響)
材料力学を学ぶと梁(はり)のたわみ計算や曲げ応力について学びます。
多くの場合、公式としてまとめられ巻末などに参考資料として添付されています。
材料力学は、外力が判っていることが前提となっています。
部品の内部に生じる応力や部品の変形は、すべて既知の外力に対する結果です。
多くの場合、使用状況などを想定し、製品仕様として耐荷重が想定されるので、その外力を利用し応力や変形量を求めます。
この場合、使用条件は分かっていましたが、荷重までは提示されていませんでした。
もう一つ、忘れがちな条件が付いています。
船舶なので、港湾や海上では海面の波やうねりで船体が左右方向に揺れるローリングや前後方向に揺れるピッチングが発生します。
もしマイクロバスが乗船して固定されていた場合、船体の揺れによって前後左右にあるタイヤに作用する荷重が変わります。
港湾法の調査から始まりました。
調べていくと、波高200mm以下の場合を航行可能な状態と見なしていることが判りました。
次に、最悪のケースですが、波高200mmの波を船舶の横から受けた場合の甲板の傾きを求めました。
通常、横波を受けないように船の向きを調整します。
そこで、船舶の重心位置、海面の位置、甲板位置を教えてもらいました。
船舶の重心位置を回転中心として波高200mmを受けたときの傾きと、回転角度を求めます。
その一方で、ニュートンが唱えた慣性の法則から、甲板が傾いたとしてもマイクロバスはその位置に留まろうとします。
その結果、船舶の法線方向とマイクロバスの法線方向が不一致となり、タイヤに作用するマイクロバスの車両重量は不均一になります。
何も考えなければ、単純に車両重量を四等分すればいいのです。
しかし、今回の場合、甲板が傾くので想定すべき外力は(車両重量)/4よりも大きくなります。
また、その荷重を計算するためには、材料力学以外に機械力学も必要になってきます。
CAE/FEMツールがあるだけではダメで、使いこなすための知識や教育が必要になってきます。
3 外力の算出(車軸に作用するアンバランスな車両重量)
通常でした、車両の中心に重心があるので、前後の車軸に作用する車両重量は均等に半分になります。
想定しているマイクロバスは、ハイブリッド車両も想定していたので、電池の配置位置から重心位置が車両後方にありました。
そのため、前後の車軸に作用する車両重量は回転モーメントがゼロになるように負荷されますので、最初に計算しました。
今回は、最悪のケースとして、船舶の左右方向の揺れを想定しています。
求めた前輪軸、後輪軸に作用する車両重量を船体の傾きに応じて、左右のタイヤの力に分解しました。
ここまでの段取りは、シミュレーションを行うための段取りとして、今でも手計算で行わなければならないのかもしれません。
そのようにして求めた荷重(前輪、後輪)が以下の計算書になります。
また突発的に揺れる場合があります。
静的な状況だけでなく、動的な荷重として、求めた荷重に安全率で5倍としました。
機構解析ツールを使えば、このような外力計算はしてもらえると思います。
しかし設定すべき初期条件を設定ができなければ、ただしい結果も得られません。
生成AIを使えば…。
という声も聴こえそうですが、今回のケースは特殊な条件ですので、生成AIを教育する教育事例が少なすぎます。
生成AIが答えられないのだから、『できません。』は、結果ではないです。
工芸品を製作する職人のように、AIが回答しなかった場合に備えて、稀な案件に対する知識やノウハウを残すことは必要だと思います。
4 ランプウェイの構造検討
実は、この装置は一品もので、参考とするものがありません。
仕様は『船舶上で車両重量が8t(トン)以下のマイクロバスを昇降される装置』でした。
最初は既製品の導入を考え、昇降装置の開発事業者に相談したそうです。
回答は、
『昇降対象物の重量が8tなら、昇降装置も同じぐらぃの重量になる。』
だったそうです。
船舶の付帯設備なので、軽量化が求められるそうで、本体の目標重量は1.8t。
駆動系の装置(油圧シリンダなど)を入れても2tが目標だったそうです。
また予算も、鋼材の素材単価などから算出しており、装置重量8tだと予算に当てはまらず話にならなかったそうで、
そのため、強度・剛性を保ちつつ軽量化を目指すことになります。
最初に走行時に車両のタイヤがフレームの隙間にハマらないように、隙間の検討をしました。
同時に、走行面の桁フレーム(左右方向)を可能な限り短くし、両端に生じる曲げモーメントが最小になるようにしました。
フレーム構造で一番厄介なのが、フレームの長さにより両端に生じる曲げモーメントです。
この曲げモーメントに対し『消しゴムマジック』は使えません。
そんなことも意識しながら、以下のような検討をおこないました。
さらに、曲げモーメント線図(BMD : Bending Moment Diagram)を使い、クライアントへの説明用に以下のグラフを作成しました。
まず、曲げ応力が降伏応力になる曲げモーメント(降伏応力)を算出し、グラフとして描画します。
次に波浪などで生じる静的な最大荷重を使い、曲げモーメント線図を重ねます。
最後に動的な最大荷重を使い、さらに曲げモーメント線図を重ねます。
グラフを見れば明らかですが、降伏応力を発生させる曲げモーメントよりも小さいので、強度的には問題が無いことが判ります。
また、このような図はFEM解析結果の数値結果を使いグラフにしています。
私が作成するFEMの強度・剛性レポートは、このようなグラフが多いです。
SolidWorksには、BMDを描画する機能があったように記憶しています。
しかし、このような組み合わせや降伏応力の要因となる値との比較機能については、分かりません。
お持ちの方がいらっしゃいましたら、調べてみてください。
5 さいごに
学校などでも、FEMツールの使い方と結果の整合は教えますが、ここまでの検討方法や応用については教えていません。
『時間が少ないくて、手が回らない。』というのが理由です。
それ以外に、本人が、教えた内容の基本を理解し、センスと才能があれば、ここまでは応用できる。
そんな思いもあります。
しかし見たこともないことに対して、若い人達に、『応用で考えてみませんか?』
というのも無理な話です。
専門学校で教えています。
そこでは、計算結果の評価方法や評価基準(破壊・破損の切り分け方)なども教えています。
この仕事で、面圧の計算が求められているのに、梁の等分布荷重の公式を使って計算している方がいることを知りました。
公式を正しく使うために描かれている模式図を圧力と認識し、自分のなかで面圧を求める公式にしてしまったようです。
非常に複雑なことをしているのだから…。と、法外な計算料を請求してきたそうです。
本当は面圧を求めればよく、作用する外力に対し、受ける面積で割ればよく、電卓があれば、その場で計算できる内容です。
これは、たまたま。
そう思いたいです。