1 結論から言います
ムリです。
歴史が証明しています。
その歴史については、別の記事で説明します。
挑戦は行われているようですが、成功し製品やサービスとして流通している話は聴いたことがありません。
2000年台、当時の人工知能に関する技術を使って、特定の図面についてはできるようになったと、新聞記事で拝読しました。
しかし、その後、その技術が商業サービスとして市場に展開されたことは聴いたことがありません。
作図のルールはJISで規定されておりますが、図面のまとめ方について詳細な規定はありません。
このような場合、二次元図面データを人工知能が学習しても、三次元的な形状モデルへの変換ルールをまとめられないように思えます。
現在、製造業の三次元化は概ね終わったように思います。
東京オリンピックと大阪万博の準備の影響で、数年前から建設業にも設計の三次元化が始まりました。
どう考えてて三次元化に取り組むべきか、突き放した言い方になりますが、指針を示したいと思います。
2 二次元図面とCADデータ
以下の図は、二次元CADで設計し作図した図面になります。
三次元CADを使っていると部品モデルに対し、1つの製作図データとなります。
ですから、三次元モデルに対し図面データが対になってWindowsのフォルダーなり、PDM上で管理されていたりします。
二次元CADの場合、取引先のプロジェクト毎にファイルを作成し、そのファイルにすべての製作図をまとめていきます。
以下の図は、そんなプロジェクトの1つになります。
一番上が提案図。
その次が組立図。サブユニット、部品図などは、さらにその下に作図するため、このような見方をすると階層構造になっていることが判ります。
この提案図から部品図までを展開し、その後、構成する部品の詳細をまとめ、階層の上に向かって詳細を詰めていく。
二次元CADを使った設計は、このような流れになります。
設計者が考えていることを、直接、図面としてまとめるため、短時間で図面が作成できます。
その代わり、現物が製作されないと三次元的な不備などは、作図途中で気が付かない限り、分かりません。
また、作図時にイメージして利用するものは、標準的な機械要素部品や定尺で販売されている鋼材が中心になります。
ブロックを加工して部品にするようなことは、あまりしません。
3 三次元CADと二次元CADの違いによる作図工程の違い
最近は、最初から三次元CADを使うので二次元CADでの経験が少ない若手が多くなってきました。
自分も、大学では三次元CADを使い、そのまま就職したので、30年間、二次元CADを使って仕事をしたことがありませんでした。
新卒当時、まわりは二次元CADが当たり前の状況でしたので、上司や同僚との話がかみ合いませんでした。
2015年頃から建築関係の仕事を請けるようになり、最初の頃は三次元CADで対応していました。
しかし、前節で書いたように二次元CADで作図した場合のスピード感が異なり、取引先からクレームを受けることが多くありました。
そこで、二次元CADを新規に導入し、いくつかのプロジェクトを請負うことになりました。
その経験から、二次元CADと三次元CADでは、同じCADでも設計から製造までの工程が異なることが判ってきました。
同じCADというツールですが、製造までのプロセスが、二次元CADと三次元CADでは、まったく異なります。
今まで二次元CADで行っていたプロセスを三次元CADに置き替えるだけ。
この発想で三次元CADへの置き換えを進めると、図面ができあがるまでの時間が長くなり失敗します。
実際、自分が取引先から受けたクレームの多くは、イメージ程度の構想図や見積図が直ぐに出てこないことでした。
そんな経験から判ったプロセスを以下の図にまとめました。
4 二次元CADを使った製品設計のながれ
二次元CADを使った場合、いきなりですが、頭の中にある構想を図面に展開します。
全部の詳細な形状寸法が判らなくても、利用する購入部品や規格品などを図面上に並べ、装置全体のイメージを構想図としてまとめていきます。
時間で言えば、1~2日もあれば、インターネットを利用し、必要なデータをダウンロードして構想図としてまとめられます。
この構想図が見積図などになります。
その後、この構想図から装置を構成する部品を図面にまとめていきます。
構想図に作図した部品図を重ねながら、形状寸法の確認をすすめます。
さながら、トレーシングペーパーに書き写した図面を構想図に重ねる作業と同じになります。
部品図がまとまれば、構想図に重ねてユニット毎の組立図や製品図を作成します。
このあと、検図を踏まえ製造部門に展開されます。
現在、三次元CADでメリットとされているようなことは一切、省かれています。
そのかわり短時間で製品図がまとめられるのて、製造に十分な時間がとれるようになります。
その結果、製品をよりよくするため、現場合せ、いわゆる現合(げんごう)のような作業も発生します。
図面1枚、XXX円とか、設計費用などが買い叩かるようになったのは、このような背景もあります。
5 三次元CADを使った製品設計の流れ
こちらも二次元CADと同様に、購入部品などをどのように配置するかを考えながら装置設計を行います。
違う点と言えば、購入した部品を取付ける部品を1つずつ設計していくことでしょうか。
三次元CADで組立図(装置モデル)を作成する場合、必要な部品データが揃っていることが前提となります。
そのため、必要となる部品の設計(モデル)を行い、それらを組み合わせた組立図(モデル)を作成します。
そのため構想図ができあがるまでに時間が必要になり、取引先様からのクレームにつながるわけです。
三次元CADを使う場合、事前に製品仕様が決まっている場合に効果が出てきます。
そのため、モデルベース開発が注目されるようになりました。
一方、二次元CADの場合、構想図を元に詳細な仕様を詰めることが多いため、構想図までの時間は短い方が良いのです。
三次元CADを使うと、FEM解析のようなシミュレーションも行えるため、初期に提示された仕様の問題点なども発見できます。
しかし二次元CADの場合、径兼や実績をベースにした検討会となるため、今回に適用できるかどうかは不明なことも多いです。
このように二次元CADで構想図に相当する基本設計が完了すると、詳細設計を進めていきます。
最終的に製品形状が三次元のモデルとしてまとまれば、そこから製作図の作成になります。
以上のように製品の設計のために三次元モデルを作成し、仮想空間で部品単位での強度、装置としての動きなどを確認します。
そのうえで、製作図を作成するのですから、設計時間は長くなります。
同時に製造にかけられる時間は短くなります。
短くなる理由としては、これまで現場で確認していたことを設計段階で、三次元モデルを使って確認できるようになったからです。
このような前倒し作業があることが理解できると、二次元CADから三次元CADへの置換は、ツールの置き換えではないことが判ると思います。
6 本当のところ、二次元CADから三次元CADへの移行はどうすればいいの?
まず、二次元CADを使った設計・製造事業は残してください。
その事業で利益が得られているのならなおさらです。
そのうえで、三次元CADを使った新しい事業として立上げ直してください。
三次元CADにすると、これまでの設計プロセスが適用できません。
新規に事業を興すつもりで進め、利益が得られる事業に成長させましょう。
とくに、これまで製造過程で行われていた仕様確認は、事前に三次元モデルの中で行えます。
構想図などリアルで見られるものは無くなりますが、プロジェクターで三次元CADの中にある装置のモデルを見て検討しましょう。
また、標準部品などの規格を作成し、部品ライブラリー(3Dモデル)として準備しておくことも必要になります。
すべての部品のモデルを作成していたら、時間もかかりますし、製造コストも大きくなっていきます。
製造と設計の効率向上を図り、そのうえで利益が出てきたら、二次元CADで行っていた事業を三次元CADに切替て見てください。
7 さいごに
二次元CADは古く、今に合わないツールだとは思いません。
実際、和歌山県の経営支援機関を経由し、和歌山市のある企業様の相談を受けたことがあります。
事業内容を伺い、CADをどのように使いたいかなど事業計画を伺いました。
使い方からすると、三次元CADの機能を利用する部分はなかったので、二次元CADで進めることを提案しました。
経営支援機関の担当者は三次元CADが多機能であり、経営拡大を図るときの必要性を説いていました。
しかし、社長の考えは、今、作っている製品の品質向上と効率を上げたい。ということが目的でした。
経営拡大などは視野に入っておらず、三次元CADを選択する理由がありませんでした。
どのような事業で、今後、どこに向かうつもりなのか。
CADはツールです。
二次元でも、三次元でも、どちらもデジタル化を進めるツールです。
迷ったら、ご相談ください。
経営的な最適解を、一緒に考えましょう。