1 グラフィックカーネルとは
三次元CADには、グラフィック・カーネルと呼ばれるソフトウエア・ライブラリが搭載されています。
これは、三次元CADソフトのコア部分であり、グラフィックカーネルの性能が、そのままお使いの三次元CADの性能になってきます。
このライブラリは、基本的な形状をグラフィック描画する際のロジックを定義します。
例えば、球(ボール)の形状を定義するとき、中心点と半径、または直径を指定します。
この情報を元に、グラフィック・カーネルが、球(ボール)の形状を定義します。
その際、データ処理の都合上、切れ目のない面で球(ボール)形状を作成することはできません。
おそらく、半球上の面を合わせたような形状など、いくつかの閉じた面で構成された球(ボール)形状が作成されます。
この部分を担うのがグラフィックス・カーネルです。
2 三次元CADのデータ交換はヒヤヒヤします
三次元CADを使った仕事を35年もしていて、一番、ヒヤヒヤすることは、取引差様のCADデータをインポートする時でした。
うまくAlibreDesignでインポートできれば良いのですが、できなかった場合、仕事が進みません。
別に用意しているRhainocerasを使って、インポートしたデータを修正し、改めてSTEPデータで出力してインポートをやり直すこともありました。
うまくデータ交換ができない理由は、このグラフィック・カーネルの違いになります。
モデル形状の定義の仕方が異なるため、中間ファイルに変換したとき、インポート側のグラフィック・カーネルに定義されていない処理が含まれることがあります。
このようなときに、うまく形状が読み込めないため、修正が必要になります。
三次元CADの選定時に考えることは、
他社の三次元CADとスムーズに三次元データの交換ができるか?
ということになります。
また、自動車関連の取引先が多い地域にいます。
社名は挙げませんが、上位三大メーカーのうち2社はCATIAを使っています。
もう一社はNXです。
確率で考えれば、CATIA、もしくは開発元のDassault(ダッソー) Systems社の製品を使っている可能性が高いです。
モデリング・カーネルのレベルで合わせれば、三次元データの交換は円滑に進みます。
3 CATIAのグラフィック・カーネルはなに?
インターネットでCATIAのグラフィック・カーネルを探すと、
- 『公開されていないため、分からない。』
- 『Dassault Systemsオリジナルのカーネルを使用』していると思われる
という記述が多かったです。
商用販売開始時からCATIA V4 までは、汎用機(IBM3090)やEWS(IBM/RS-6000)のような高性能のコンピュータ上で動かしていました。
そもそもCATIAは、販売当初、B-Reps方式で三次元形状を表現していました。
現在のようなCGS方式ではなかったため、グラフィック・カーネルもオリジナルで自社開発になります。
この頃までは、インターネット上の情報に間違いはありません。
CATIA V5の発売時期にPDQ(Product Data Quarity)と呼ぶ、三次元データの品質が問題になってきました。
西暦2000年には自動車工業会が、データの品質が悪いため修繕作業に年間数億円の人件費が発生していることを公表しました。
その影響もあり、CATIA V5にはデータを修繕する機能(ヒーリング)が追加されました。
この機能を提供していたのが、Spacial Technology社です。
この会社はACISと呼ばれるグラフィック・カーネルやそのSDKをライセンス販売しています。
また、中間ファイルの(.sat)ファイルは、この会社が開発した書式になります。
私も、一度、この会社と打合せをさせていただいたことがあります。
いろいろと経緯がありますが、2年ほどの時間を掛けてDassault Systems社の傘下となりました。
ネットでは、今でも旧社名のSpacial Technology社の社名を使っておられる記事を見ますが、現在は、Dassault Spacial社となり、社名は変わっています。
その経緯を考えると、CATIA V5には、データを自動修正(ヒーリング)する機能にマッチしたグラフィック・カーネルが搭載されてると推察されます。
おそらく、ACIS、もしくはACISをベースにしたオリジナルのグラフィック・カーネルが搭載されている可能性が高いです。
4 AlibreDesignのグラフィック・カーネルはACIS
現在、使用している三次元CAD、AlibreDesignのグラフィック・カーネルは、ACISを使っていることが公表されています。
AlibreDesignはACISのSDKを使って開発されています。
CATIA V5やV6とのデータ交換は円滑にできる見通しが見えてきます。
事実、2010年頃には、CATIA V5のネイティブデータ(.CATParts, .CATProduct)が、そのまま開けました。
モデリングと製図機能については、スモールCAITAと呼んでも良いような状況でした。
現在は、中間ファイル(STEPデータ)でのインポートに切り替わりました。
これは、2019年のSTEPデータの規格が更新され、現在は(.stp242)になった影響が大きいです。
5 SolidWorksとの関係は?
AlibreDesignとCATIA V5以降はグラフィック・カーネルがACISで近いことが判りました。
もう一つの業界標準化している三次元CAD SolidWorksとのデータ交換はどうでしょうか?
SolidWorksのグラフィック・カーネルは、Parasolidになります。
ACISとは別のカーネルとなります。
一方、SolidWorksは、もともとイスラエルで開発されたソフトですが、Dassault Systems社に買収され、現在はアメリカに本社を置いています。
実は、Dassault Spacialになってから、SolidWorksとのデータ交換が円滑に行えるように追加機能を開発していたようです。
最終的には2017年に問題なくParasolidとACIS間のデータ交換に支障は無くなったようです。
実は、AlibreDesignには、CATIA同様にSolidWorksのネイティブデータを開く機能がありました。
2017年頃までは、SolidWorksのネイティブ・データを開いたり、出力することが出来ていました。
やはり、CATIAの場合と同様、中間ファイル(.STEP)の規格が更新されてからは、そのような機能は無くなりました。
6 AlibreDesign, SolidWorks, CATIAはシームレスにデータ交換が可能
結論から言えば、AlibreDesign、SolidWorks, CATIA間の三次元データはシームレスにデータ交換が可能です。
この3つのCADを比べた場合、SolidWorks, CATIAに対する初期契約費用や年間ライセンス利用料は高額で個人で使うには敷居が高いです。
その点AlibreDesignなら、モデリングと製図機能に限定されますが、敷居は低いのではないかと思います。
趣味で三次元CADを使うのなら、FreeCADでも良いと思いますし、無償で提供されている三次元CADでも良いと思います。
取引先がNXやDassault Systems社とは異なる残時限CADなら、このような視点で三次元CADを選定について検討されてもいいと思います。
自分は、このような開発の歴史も踏まえて、AlibreDesignを選定し、2009年頃から使っています。