1. はじめに
2025年1月10日に予定していた『モデルベース開発の基礎と製品開発における実践』の技術セミナーは中止となりました。
理由は最少開催人数に到達しなかったためです。
有償や無償にかかわらず、対面での技術セミナーは、昨年あたりから参加者が減少傾向にあります。
理由を考えてみると、以下の要素が考えられます。
- 物価上昇に伴う経費削減や雇用延長による社内人材の活用が進み、社外セミナーに参加する動機が弱くなってきた。
- 生成AIを利用し、キーワードを検索すると技術用語辞典のように概要を説明してくれる。
- Youtubeなどの動画コンテンツでキーワードに関連する複数の動画が検索され提示される。
- 対面によるセミナーは消化不良が発生するが、生成AIや動画コンテンツは繰返し検索、閲覧が可能なので、消化不良が少ない。
- 対面によるセミナーでは、講師との議論によって理解が深まるのだが、
どちらかと言えば「気になる」程度の疑問でも、その場のWEB検索で解決できる即時性が求められている。
以上のことを考えると、現状の技術セミナーに求められることは、ラジオ番組にあった『もしもし、こども相談室』のようなものかもしれません。
また、消化不良の部分を復習で学ぶのではなく、不明な点があれば、その場でWEB検索で解決したり、動画コンテンツを繰返し閲覧するような様式に変化してきているのでしょう。
実は専門学校でも教えていますが、計算問題を生成AIを使って解いていた学生が居ました。
「悪い」
とは言いません。
「生成AIが答えられなかったから、できませんでした。」という事を理由にしてはダメだよ。
と諭したところ、学生は自分で考えるようになりました。
そのような背景を考えつつ、作成した資料を片付けてしまうのも残念なことだと思いました。
そこで、技術セミナー用に作成したスライドの一部を抜粋し、誌上セミナーにすることとしました。
2.一般的な製品開発のフロー
最初に紹介するスライドは、自動車業界などで標準的に行われている製品開発の業務フローです。
イベント毎に製品開発を進めていく『ウォーターフォール開発』と呼ばれる業務フローになります。
大きくは以下の三つの分野に分かれます。
- (R)-Research-試験・研究活動
- (D)-Development-開発・設計活動
- (E)-Enterprise-製造・量産活動
a). 試験・研究活動
学術的な研究要素が強い部分です。
大学との共同研究などで基礎研究的な原理証明などを行い製品化の可能性を提示する段階です。
b).開発・設計活動
試験・研究活動で得られた知見を元に、製品化するための設計図書としてまとめる活動になります。
設計図書とは、商品仕様書・部品図・加工図・組立図・製品図など、製品製作に必要な資料となります。
ここまでを「R&D」として一般的に言われる部分です。
企業活動の一部ではありますが、どちらかと言えば文科省が管掌する領域となるため、文科省の政策に連動した助成金による支援を得やすい部分になります。
(参考)図面の資産的な価値
また、設計図書は製品を製造するための参考図書として位置づけられています。
例えば、図面通りに製作した金型から、微調整せずに販売できる製品ができれば、図面に資産価値が付くことになります。
しかし、現実には製作した金型の修正や微調整が発生します。
この時点で、図面どおりではなくなるため、資産的な価値が図面から消えてしまうのです。
そのため、現状では設計図書は固定資産としては見られないため、固定資産としてみなされおりません。
設計図書を元に製作された部品に対し、「どのような修正や調整をしたのか」。
この部分が製作された部品を資産化するために重要な部分となり、ノウハウとして残すべき部分となりますし、
c).生産・製造技術・組立生産技術
開発・設計活動で作成された設計図書を参考に、量産製品を製造するラインを作りこむ活動になります。
ここでの活動は、設計図書を使い修正や微調整を繰返し、販売可能な量産製品を製造するラインの開発になります。
そのため、『段取確認』、『品質確認』、『量産確認』などの確認工程があります。
一般的な製品開発活動は、以上のような工程を踏まえて行われています。
3.モデルベース開発とは
WEB検索で紹介されるサイトや、生成AIなどを利用し意味検索を行うと、以下のようなこと示されると思います。
『動く仕様書』としてモデルを作成し、作成したモデルをベースに量産化すること。
「2.一般的な製品開発のフロー」で紹介した「ウォーターフォール開発」とは異なり、『V字開発』が特徴となります。
また、V字の左側は仮想空間での開発活動を意味し、右側は現実空間での開発活動を意味します。
適用する場合、ロット数が少量であったり初めて取り組むような製品開発に適しています。
そのため、段階的に進む「ウォーターフォール開発」とは異なり、作業工程の後戻りも認めています。
それは、開発が進むにつれて、見えなかった問題点や課題も見えてきます。
明らかになってきた問題や課題を解決するためには、これまで積み上げてきた検討結果の積み上げ直しが必要な場合も出てきます。
自分の場合、平均的に3回は仕様設計からやり直しています。
最大で6回のやり直しをしています。
お客様とのやり取りは、以下のようになります。
- 1回目のモデルでは、私の方から曖昧な部分を指摘し、お客様の考えを引き出します。
- 2回目のモデルでは1回目で引き出した仕様情報の確認や、作成した製品形状のブラッシュアップを行います。
- 3回目のモデルでは最終的な確認となります。この時点でレンダリングなどを使い製品イメージなどをお見せすることもあります。
ロット数が大きくないので、量産途中での設計変更ができないような製品を開発している場合、仕様設計からやり直すことで製作時の修正や調整を抑えられます。
4.大部屋(War room)とモデルベース開発
モデルベース開発は大部屋(War room)開発と言い換えることもできます。
モデルベース開発には『仕様設計』という工程があります。
従来ですと、『基本設計』として形状レイアウトから作業が進みます。
モデルベース開発では、その前の段階で機械、電気。制御、生産技術などの検討を同時に行い製品開発の方向性を決める仕様設計を行います。
形状レイアウトから始めてしまうと、電気や制御が後付けとなり、後工程で改造・改修などが必要になることが多いです。
それを抑えるため、形状レイアウトを始める前に、各分野から専門知識、スキルを持った人達に集まってもらい、製品開発情報を共有し製品開発を進めることが特徴となります。
三次元CADが一般的な主要ツールとなった2005年頃、仕様として各部門の担当者が開発情報を仮想空間に集め、現実空間で製品を作り上げていくことに気が付きました。
このことに気が付いたのは大手企業にもあり、当時から大部屋開発をしていたそうです。
5.まとめ
ロット数が大きな製品ですと、ウォーターフォール開発の方が適していると思います。
その一方でロット数が小さい製品や原理証明を目的とした試作装置を開発する場合、後工程での改造・改修作業を抑えられるモデルベース開発の方が適していると思います。
私は一人で機械・電気・制御・組立・動作確認などモデルベース開発で求められる一連の作業を行っておりましたが、一人で取組む開発手法でもありません。
企業内にいる多様な人材を集め、意見やアイデアを聴き、製品として開発していく手法です。
一人でモデルベース開発を駆使すれば、法人を10年の間、維持できるほど開発効率は高いです。
しかし、この場合、多様なアイデアが入らなくなり、最終的には人を増やして事業拡大することが難しくなります。
取組む場合、大部屋開発を参考に、取組むことをお勧めします。
今回は、モデルベース開発と一般的な開発手法との違いについて説明しました。
動画は作成しておりませんので、この記事でご不明な点については、お問い合わせください。